卒業研究要旨(2022年度)

利用者の行動から見る複合型図書館の実態

2022年度卒業研究 空間デザイン研究室 山田綾音

1.はじめに

 複合型図書館は、多様な人やモノを受け入れ、賑わいのある気軽に立ち寄れる場となるように設計されつつある。実際に意図通りの使われ方をしているのか、複合された効果、課題を明確にしていきたい。

2.調査概要

2-1.文献調査

1990~2020年に発行された新建築から複合型図書館113館を抽出し、図面および説明文から、この30年における複合型の変化を見る。

2-2.観察調査

混合型の「ゆいの森あらかわ」と分離型の「大宮区役所?大宮図書館」を対象とした(表1)。各2日間、10-20時にわたり観察調査を行った。

3.複合型の変化

 複合される機能としてはオフィス、ホール、展示、飲食などは多い(図1)。複合のされ方としては、図書館と他機能を平面的?垂直的に分離させるタイプから、混合させるタイプが増加している(図2)。分離型では、図書館と他機能との間にエントランスや交流空間を挟む形のものが多く、それぞれの独立性を確保することが前提となる。混合型では、異なる機能が同平面に仕切られずに混在することで、従来の図書館とは異なる過ごし方が誘発されることを意図している。設計のキーワードを抜き出すと「街の中心的施設」から「出会いの場」となり気軽に立ち寄れる場所が目指されている(表2)。

4.観察結果

 ゆいの森あらかわでは、機能の枠組みを超えてホールのなかで読書をしたり施設全体で広場のように自由に過ごしたりできるようになっている。休日のホールでは開放されている夕方に親子で読書をする姿が数人見られたものの、平日にはほとんど利用者がいなかった。学生が多い時間は席の確保が難しく自由に過ごせる場所が限られていたが、死角となった場所では様々な居方が見られた。

 大宮区役所?大宮図書館では、吹き抜けの共用空間が人々の居場所となり、活動が広がっていくようにされている。共用空間であるステップリビングでは読書や居るだけなど様々な行為がみられたものの、1階の共用空間である氷川の杜ひろばでは利用者が少なく、活動が広がっているとは言い難い。

5.まとめ

 複合型図書館は、気軽に行きやすい街のような場所へと変化している。ただ実態をみると、複合の効果は十分に見いだせなかった。利用者の行動や視線を配慮して機能を配置させていく必要があるのではないかと考える。

(表1)調査対象施設
  ゆいの森あらかわ 2017年3月
  中央図書館、吉村昭記念文学館、子どもひろばの3つの機能の複合施設。機能の役割を超えて全体がつながりあらゆる人を受け入れる多様な場所を内包する「小さな街」のような建築であり、皆が自由に過ごすことのできる広場のような施設。
  観察日:12/7 12/11

  大宮区役所?大宮図書館 2019年5月
  区役所と図書館の2つの顔を持つ複合施設。明確には区切らず吹き抜けの共用空間を介して繋がることで市民の居場所となり活動が波及し影響し合う新たな公共建築を目指している。
  観察日:12/4 12/8

(図1)複合機能(割合)
(図2)複合のされ方

(表2)設計キーワード
 1990年代:広域な交流へとつながる核、新しい時代のシンボル、交流という新たな空間、魅力的な文化ゾーン、2つの都市軸、都市コミュニティの核、街のランドマーク、ネットワーク拠点、文化?情報を発信する機能、中核施設,景観整備の核,文化?情報の発信基地
 2000年代:ふれあいの生まれるサロン、全ての活動がまじりあう、世代を超えたコミュニケーション、活動を結び付けるネットワーク、「もの」「こと」を結び付け流通させ人と結びつける、情報の交流が行われる場、人びとの視覚的交流,知や時空の体験、人と本の良き出会いの場
 2010年代:広場のような公共建築,いつも人が訪れ行き交う「まちかどプレイス」、図書館を身近な存在に、快適な市民の居場所、多様な場所を内包する「小さな街」、もう一つの家、街を歩くような建物、「街を紡ぐ」建築、市民のリビング的空間、動植物と人がともに暮らす街のリビング、誰もがふらっと立ち寄ってにぎわう「公園のような場」



2003-2023, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2023-02-10更新