SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2021年度卒業研究 空間デザイン研究室 小野七海
1950年代半ばから70年代に出来た団地群は、現在建替えの時期を迎えている。建設当初からの居住者は、団地で50年経過し、新しい環境へ住み替わることとなった。本研究では、赤羽台団地?ヌーヴェル赤羽台(東京都北区)を対象に、団地の建替に伴う生活の変化から、その影響や課題について考察する。
調査時期 2021年10月~11月
調査対象 戻り入居の方15名(60代~90代)
調査内容 (1)建替前後の生活の変化について(2)生活の広がりについて、地図を用いて話を記録した。
浴室や冷暖房などの設備は格段に評価が高い。ベランダも広くなり行き来がしやすく使い勝手が良くなった。ただし囲み配置になり、住棟によって日当たりの差は大きくなった。いっぽう間取りの自由度が高くなり洋風化したことで戸惑う声が上がっている。また収納関係の不満は多い。
高層化し、すべての住棟にエレベーターが設置されたことで便利になった。しかし住戸の閉鎖化や、階段室の消失により、住民同士の顔を合わせる機会が減少している。隣に住んでいる人の顔も分からず、住棟内の生活感が希薄化している。また、住棟の設計や建設時期の違いにより、住棟ごとに差があり不満や不信感に繋がっている。
いつでもゴミ出しが可能になったことで便利になった。建設当初賑わっていた団地内商店街はかなり廃れたが、建替えに伴いスーパーができ、団地内の利便性は高まった。ただし店の選択肢は乏しいと感じている。かつて商店街が賑わっていた頃は、団地全体に人の気配があった。買物ついでの交流は変わらず続いているが、機会は減少している。
かつて子供がいた頃の付き合いは、継続しつつも高齢化に伴い希薄化の傾向が強い。また、建替えによってバラバラになり住んでいる場所も分からなくなった。中庭やエントランスはコミュニケーションの場として機能しておらず、偶然顔を合わせる機会は少ない。住戸が閉鎖化したことで、近所付き合いのきっかけがなく、居住者の意識も他者と距離を置くように変わってきている。
建替えによる変化や不満を抱きつつも、長年住み続けている場所であり、交通や生活の利便性の高い赤羽という場所に対する愛着は高く、1人になっても住み続けたいという意見が多い。しかし、団地全体、自身の高齢化によって将来に対する不安も感じている。体力衰退から行動範囲の縮小につながる場合もあり、団地全体から生活感が薄れていることが寂しさにも繋がっている。
この団地では、建替えによって老朽化した施設や設備は一新され、生活の利便性?快適性は上昇した。また、建替え前後で全く違う生活となり継続性が失われ、住棟や団地の生活感やコミュニティが希薄化したと感じている。団地全体の高齢化による変化、時代による居住者意識の変化などの影響もあるが、建替えによる変化が影響で生活が希薄化した部分も大きい。建替えプロセスの不透明さが、戻り入居同士の距離感を遠ざけている側面もある。
居住者の生活の広がりをみると、建替えによって、住戸設備、エレベーター、スーパーなど点的は充実したが、住棟~団地~地域といった面的な広がりは希薄化していることが課題である。自身の高齢化により生活範囲が縮小した場合、こうした環境の変化は、その人の生活により大きな影響を及ぼす可能性がある。
(表1)調査対象地の概要
赤羽台団地?
入居開始:1962年(1963年完成)
棟数戸数:全55棟3373戸
階数:1~7階
店舗:商店街(明治屋(スーパー)、魚屋、衣料品、パン屋、そば屋、本屋、電気屋など約30店舗)
特徴:23区内初のマンモス団地、様々な種類の住棟
配置:平行配置
ヌーヴェル赤羽台
入居開始:2006年(現在も建替え中)
棟数戸数:全30棟2800戸
階数:1~12階
店舗:マルエツ、ダイソー、薬局、サイゼリヤ、郵便局、診療所、歯医者、クリーニングなど
特徴:複数の建築家が協働して設計棟ごとにデザインが異なる
配置:囲み配置
2003-2022, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-02-09更新