SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2021年度卒業研究 空間デザイン研究室 水野珠蘭
近年の団地は高齢化?衰退化が進み、治安の悪化や高齢者の孤独死、コミュニティの希薄化など様々な問題を抱えている。単に年代が経って老朽化したことのみが原因ではなく、団地そのものの閉鎖性と、環境に対する住人の関わりの希薄化が要因にあるのではないか。本研究では、団地にカフェを開くことで、団地の閉鎖性に穴を開け、活性化につなげた事例をとりあげ、団地に対するカフェの影響力について考察する。
プレ調査として7箇所の団地を訪れ、その中から相武台団地「ひばりカフェ」、ホシノタニ団地「喫茶ランドリー」の2箇所を調査対象とした。それぞれ3日間ずつ、オーナーやスタッフへのヒアリング、利用者へのインタビュー、観察調査を行った(表1)。
オーナー佐竹さんは、団地の共有空間活性化を目指すグリーンラウンジ?プロジェクトに初期から参加し、団地内の組織と関わりながら、環境整備と高齢者の居場所づくりを行ってきた。そんなオーナーの人柄と活動が多くの人を呼び寄せ、団地内外の多様な活動主体のネットワークを構築している。カフェでは利用者による販売や教室、子ども食堂など、様々な活動が展開される他、大学の研修先として学生も訪れている。多様な主体が団地に関わったことで、団地の広場は活気を取り戻し、環境も改善されてきた。また、利用者にとって団地にあるカフェは、馴染みやすく、安心感を得られる場所となっている。
地面のレベルにパブリックな空間を設けようという親会社(グランドレベル)の方針のもと、現場スタッフによる自由度の高い運営が行われている。オリジナルメニューやイベント、食料の持ち込み可、ペット入店可などに惹かれ、常連になる人も多い。またスタッフから利用者に働きかけて、小さな企画を実現し、利用者同士の交流も深まるなど、利用者を巻き込む様子が特徴的である。それが団地にパブリックな場所を生み、外部の人を引き込んだ。そして緑の多い広場は、車が入らない安全性もあり、安心感をもたれている。利用者にとって心地よくいられる場だけでなく、他者と接触の場、参加?実践の場へと変化している。
対象にしたカフェは、オーナー?スタッフの個性や運営によって、それぞれ団地に特有の影響を与えている。いずれも、利用者にとって親近感をもたらす居場所であり、団地外から様々な人を呼び寄せ、交流と活気をもたらしていた。また緑が多く車も通らない団地内にあることが利用者に安心感をもたらすことと、利用者やそこでの活動が団地の活性化に寄与する、という相互に支え合う関係を見出すことができた。
(表1)調査対象カフェの概要
相武台団地「ひばりカフェ」
所在地:神奈川県相模原市
調査日時:2021年11月6日、11日、13日
衰退化した相武台団地を活性化することを目的とした“グリーンラウンジ?プロジェクト”の第1期活動者である佐竹輝子さんが、2015年にカフェをオープンした。
ホシノタニ団地「喫茶ランドリー」
所在地:神奈川県座間市
調査日時:2021年11月19日~21日
元小田急電鉄の社宅を2015年bluestudioがリノベーションを行い、敷地内に農園や農家カフェ、子育て支援センターができた。農家カフェが閉店したため、2019年株式会社グランドレベルが運営する「喫茶ランドリー」がオープン。
(表2)利用者へのインタビュー内容例
<ひばりカフェ>
団地の変化
?イベントを開きに作家さんが来るようになった。
?以前は治安が悪く、暗かったがカフェができてから明るくなった。
カフェでの知り合い
?佐竹さんやスタッフさんに会いに来る。
?常連の友達ができた。?
カフェがあることの良さ
?団地に近所の人しか来ないので馴染みがある。
?団地内だと地域の人と近くなって、顔見知りが増え、居心地が良い。
<喫茶ランドリー>
カフェでの知り合い
?スタッフさんは知り合いであり友達。
?常連同士でLINEグループを作っている。
カフェが団地にあることの良さ
?団地は少し隔離されている感じのなので、静かで落ち着きがある。
?車が通らないため、安心して子どもや犬と来られる。
(図1)ひばりカフェ
(図2)喫茶ランドリー
2003-2022, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-02-09更新