SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2020年度卒業研究 空間デザイン研究室 高橋佑果
「コミュニティシネマ」とは、主に市民活動が主体となって、商業ベースに乗りにくい作品を中心に上映する地域に根ざした小さな映画館である。こうした映画館は、シネマコンプレックスなどの大規模映画館のような映像体験は難しいが、ここでしか見られない映画を上映するだけでなく、地域の価値を高めるまちづくりの拠点としての役割も期待されている。本研究では、埼玉県深谷市にあるコミュニティシネマ「深谷シネマ」を対象に、活動の実態や利用者の声を調査し、深谷シネマがもたらす地域への影響や役割を明らかにする。
300年の歴史を持つ酒造跡地を改装して2010年にオープンした「深谷シネマ」(表1)を対象に、以下の調査を行なった。(1)館長及びスタッフに対して、深谷シネマ開設の経緯、運営側の思い等についてのヒアリング。(2)利用の様子や深谷シネマの魅力等について、来場者(54人)に対するアンケート(一部ヒアリング)。
ヒアリング及びアンケートの結果から、深谷シネマの特徴?魅力が、以下の4点にまとめられた。
(1)地域に根ざした存在
深谷シネマは、映画を核としたまちの活性化を目指して、空き店舗を活用した新たな「生活街」を形成し、地域への新しい人の流れができることを意図している。深谷市民の利用だけでなく、市外からの利用者も多く、深谷シネマに来ることが深谷をよく知るきっかけとなっている。
(2)映画との出会いの場
深谷シネマの魅力としてはまず、ここで上映される映画に対する評価が高く、多くのリピーターに結びついている。館長の選定した映画や、利用者アンケートで選ばれた映画が上映されており、ここでしか観られない上質な映画に出会い、様々な発見や気づきがある。
(3)コミュニケーションの場
スタッフや館長と顔見知りという利用者も多く、時折監督の舞台挨拶なども行われることがあり、映画にまつわる情報共有やコミュニケーションの場となっている。利用者が投票で選んだ映画に出会うことで、利用者同士の間接的な関わりも生まれている。
(4)ここならではの環境
酒造跡地の再活用により、懐かしい町並みが再現され、深谷の歴史に触れることができる。大規模映画館では味わえない、歴史的な建物ならではの落ち着いた雰囲気、穏やかな空気を感じられることも、遠くからこの場所に訪れる理由になっている。
深谷シネマは単なる映像体験の場所ではなく、ここならではの環境、ここでしか出会えない映画、この場所に関わる人、という三者が結びついた、他では感じられない魅力のある場所になっていると言える(図1)。来館者は、深谷シネマという場所を介して、知らなかった映画の世界や映画に携わる人に触れることができ、映画を介して様々な来館者との交流に結びつき、そして深谷の町の歴史や魅力を再発見する機会を得ることとなる。小さな映画館がそこに訪れる人の世界を広げると共に、人と町や文化をお互いに繫げる拠点としての役割を担っている。
(表1)調査対象敷地の概要
名称:深谷シネマ?所在地:埼玉県深谷市深谷町
運営:NPO法人シアターエフ
開館:2002年(2010年に現在の場所に移転)
面積:120坪(敷地全体面積約950坪)
座席数:60席(固定席57席、車椅子席1席、親子席3席)
全国でも唯一の酒造を改装した映画館。300年以上もの歴史ある旧施設の七ツ梅酒造跡敷地内の一角にあり、敷地内には映画館の他に、古書店特徴やカフェなど様々な施設がある。街並みからは、煉瓦造りの蔵など当時の深谷の歴史を感じられる。
(図1)深谷シネマの結びつき
2003-2021, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2021-01-23更新