SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2019年度卒業研究 空間デザイン研究室 井上璃緒香
現代の日本には、こどもたちにとって重要な役割を果たす、家や地域の日常生活の中での幅広い学びの場が失われてきているように感じる。本研究では「日常型保育」を行っている保育園に着目し、重要性と、こどもが学ぶことについて考察していきたい。
本研究において、こどもたちが主役となり、先生と一緒になって生活を作っていく中で実践的に学んでいくことを「日常型保育」と定義する。その中では、こどもたちが能動的に体験し教わることで学んでいく。
調査対象地の東京都認定保育所「ウッディキッズ」の概要を表1に示す。11/11?11/15の計5日間、9:00?17:30において行動観察を行い、園内や外でのこどもたちの過ごし方、遊び、こども同士や先生との会話を観察し写真等で記録した。
5日間の中で記録した場面を一連の流れで捉え、エピソードとして抽出し、考察を行った(表2)。
調査から「食事」「片付け」「散歩」「昼寝」「喧嘩」「遊び」「イベント」の7つの場面で、26個のエピソードが抽出された(表3)。これらのエピソードから特徴的な要素を取り出し、「日常型保育」の構造として図1のようにまとめた。
例えば日常型保育の「食事」は、食材を用意することから始まり、調理をして食卓の準備をすると、はじめて食事をすることができる。そして、食後には食卓を片付けることで「食事」の一連のプロセスが完成する。こうしたプロセスには、<特有の体験>と、<特有の関わり方>が見出される。
前者は、実際のモノを使うリアルな体験が含まれ、またその日の状況による変化が含まれる。時には地域の人たちの日常と関わることもある。それらはプログラムされていない体験であり、多様な価値観に触れ、多様な状況へ対応する力を学ぶことに繋がる。
また後者は、こどもたちの主体的な参加が特徴である。それぞれが自分の意見を出し、こども同士で助け合いながら自然と役割分担が生まれている。先生は見守りに徹し、こどもたちのコミュニティが生活を形づくっている。こどもたちはそのコミュニティに関わりながら、生活のつくり手として少しずつ熟達していくと考える。
日常型保育は日常の一部を断面的に切り取るのではなく、日常生活そのものをこどもたちが作っていくものである。ここから、自ら学ぶ興味や意欲が生まれたり、社会の中での自分の役割や自分と違った価値観を学ぶ事ができる。また、毎日変化していく日常の中で、柔軟性や臨機応変に対応する力を学ぶことができる。
(表1)調査対象地
ウッディキッズ
施設タイプ:認証保育所
所在地:東京都あきる野市
建物面積/敷地積:137.36m2/286.39m2対象年齢:0?就学まで
理念と特徴:木造一階建てのコンパクトな保育所。家庭のような生活空間であることを重視し、こどもにも保育者にも過ごしやすい環境を目指している。園庭がなく、近所の公園や川、森などに、毎日遊びに行く。
(表2)エピソード例
エピソード10<サンドイッチ>
日時11/1410:20?11:00頃
こどもたちと先生で、お昼ご飯で食べるサンドイッチを作った。それぞれこどもたちが食パンに好きなおかずを挟み、出来上がったサンドイッチを先生がカットしていた。
サンドイッチが作り終わり片付けをした後、テーブルが汚れていることに気がついた女の子が台拭きでテーブルを拭いていた。また、床にパンくずが落ちていることに気がついた男の子が、一人でほうきとちりとりを持ってきて掃除を行っていた。
作ったサンドイッチは、お昼ご飯の時間に園の全員で食べた。「自分たちで作ったから余計に美味しく感じるね。」「○○が作ってくれたサンドイッチ美味しかったよ。」などのコミュニケーションが生まれていた。
(表3)場面ごとのエピソードの数
(図1)エピソードに見る日常型保育の特徴と構造
2003-2020, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2020-01-23更新