温冷感と安静時代謝量の関係の解明
<指導教員>山崎 和彦
<発表日時>2021年10月31日、2022年2月7日
<発表場所>日本生理人類学会82回大会 2021年度卒業研究発表会
本活動の目的は「冷環境に長期に渡り滞在するとき、安静時代謝量は増大するのか」について解明することである。寒冷ストレスにより代謝量が増大することが知られている。「下臨界気温」とは安静時代謝量が増大を開始する気温であり、軽装状態では26℃であるとされている。しかし2020年度に行った実験では、被験者の反応に一貫性が認められなかった。その原因として暴露時間の短さが考えられる。そこで本年度は、6時間ほどの長期にわたる暴露実験を実施したい。なお、この度、本学施設の人工気候室が刷新され、新規に「電力節約モード」が加わったことも、本活動の背景にある。
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2021年度
健康な日本人成人女性9名(平均21.9歳、身長158.8cm、体重49.6kg、体脂肪比率25.2%)を被験者としてお願いした。人工気候室を気温18℃相対湿度50%一定に制御し、この中で午前10時から午後4時迄、安静を保持してもらった。実験は近接した2日間であり、全身温冷感が「わずかに涼しい」または「わずかに暖かい」(以下、各々を「冷」および「温」とする)となるよう、被験者の方々は準備された衣服の中から自由に選択した。なお各自のショーツ、ブラジャー、および統一された綿製のTシャツおよび短パンは全員共通とした。
測定項目は全身温冷感、局所温冷感、皮膚温、腋窩温、代謝量であり、これらを約50分毎に測定した。皮膚温は安立製AM7002、腋窩温はテルモ製C531、代謝量はCOSMED製CPETにより測定した。さらに月経周期、生活習慣等についても尋ねた。飲食物は統一し(合計613kcal、829g、水分725ml)、食事性代謝量への影響を同一にするため、実験の両日において同じパターンで飲食するよう依頼した。トイレおよび衣服の追加については代謝量測定後に対処させた。
身体各部位温度の暴露初期に対する暴露後期の変化は、「冷」「温」各々において、腋窩温は0.43と0.61℃の増、大腿部皮膚温は0.10と1.17℃の増、足部皮膚温は7.38と4.51℃の減となった。「冷」と「温」における各測定値間には、酸素摂取量を除く全てにおいて統計的有意差が認められた。一方、酸素摂取量には有意差がなく、「冷」と「温」の差異は0~12ml/分に過ぎなかった。ただし「冷」において代謝量が減少した2名分のデータを除外すると、差異は11~24ml/分となり、一部に有意差が認められた。
前年度の実験と同様、今回においても、寒冷刺激がもたらす代謝量への影響には個人差が認められた。体熱平衡の考え方に基づくなら、寒冷下において代謝量が増大することは当然といえる筈であるが、実際には、ヒトの体温調節における戦略は多様であるといえる。
発表の記録
これは「温」および「冷」を6時間に渡って維持した際の温冷感の推移を表したものです。 主観的には「温」「冷」の条件にふさわしい状態が維持されたといえます。
実験の際の服装例です。左側が、条件は「冷」
右側は、条件は「温」です。